会社主義

新卒採用・終身雇用・年功序列という日本型雇用システムは本当に独特です。

韓国で暮らしていると、企業ビルの前で雇用条件の改善や不当解雇を訴える抗議をしていることは日常茶飯事ですし、テレビのニュースでは労働組合が労働者の解雇禁止化を求めて活動している姿を見ることができます。

その背景には韓国の雇用状況があります。韓国にも60歳定年を義務付ける法律が存在しますが、それにも関わらず定年制を実施している会社は全体の4割程度であり、定年制がある会社の中でも実際に定年まで働ける社員は3割程度しかいません。会社員の退職年齢は平均49歳であり、法で定める60歳とは程遠いことが分かります。日本では定年到達後も継続雇用されるケースが7〜8割と高いことを考えると非常に対照的です。

一方で、韓国人が実際に引退する年齢は72.3歳であり、会社を退職した後でも様々な形で仕事をしていることが分かります。例えば韓国でタクシーに乗ると高齢のドライバーが多いように感じるかもしれませんが、それが会社を退職した後の働き口の一つであるからです。また、飲食店やコンビニなどのお店を開く場合も多いです。韓国の自営業率は約25%で、日本の10%やアメリカの6%に比べてかなり高いですが、これは会社員の多くが早くに退職し、その後の再就職も容易でないため、生活のために自営業を始める人(生計型自営業者と呼ばれます)が多いことが理由として考えられます。

一世代前の韓国人であれば、大学卒業後に大企業メーカーに就職し、50歳前後で会社を「名誉退職」した後は、「人生一度は社長と呼ばれたい」ということで自分の会社を立ち上げて…というようなキャリアプランも立てられたのかもしれません。ただ最近では若者の就職が非常に厳しいですし、どうにか就職できたとしても早期に退職しなければならず、その後はフライドチキン店やコンビニ運営で生計を立てていくのが精一杯、というのが現実です。そのため、たとえ給料が安かったとしても定年が保証されている公務員になりたい、という若者が増えているのです。

実際の所得を見ても、日本では60〜65歳男性の平均賃金は約30万円/月、65歳〜70歳では約25.9万円/月なのに対して、韓国では60〜65歳男性が235万ウォン/月、65歳〜70歳で168万ウォン/月です。日本の65歳〜70歳の約25.9万円/月というのは30歳前後の平均賃金と同じくらいの水準ですが、韓国の168万ウォン/月は20代前半並みの賃金です。それだけ韓国の方が高齢者の労働条件が良くないとも言えます。

定年まで勤め上げるのが難しいだけでなく、たとえ若者であっても職を失うことは珍しくありません。韓国でも日本と同様に正社員と契約社員という区分が存在しますが、実際には正社員でも解雇されたという話はよく聞きます。韓国は会社員の個別解雇は難しい反面、リストラによる集団解雇が容易だからです。日本でリストラというと企業がかなり切羽詰まった状況に追い込まれた中で断行するイメージですが、韓国のリストラ(構造調整)は比較的頻繁に行われており、例えばプロジェクトの合間に人員を一時的に減らすような目的でも行われます。これは日本のリストラよりは、アメリカのレイオフに近い印象です。

このように、韓国では日本に比べると労働者の保護が弱いと言えます。そのため、労働組合が中心になり労働者の待遇改善を日々叫んでいるのです。

僕も過去には日本で会社員をしていましたが、辞めてみて今思うのは、日本の会社員(大企業の正社員)は本当に守られた存在であるということです。例えば病気になったり怪我をしても手当が出ます。今回のようなパンデミックが発生しても、給料を貰うことができます。世の中の進歩についていけずに仕事ができなくなったからと言って、定年前に追い出されることもありません。それを考えると、給料に満足できなくても、望まない転勤をされられても、文句を言える立場ではないなと思います。

一方で、もし韓国でも日本のように労働者の解雇が難しくなった場合、会社としては雇用に慎重にならざるを得ませんし、一度雇ってしまった後は社内異動などの方法で人をやりくりする以外に方法がありません。そのため、社員の立場からしたら理不尽と思われるような転勤・異動も、現在より増えることになると思われます。そもそも現在の韓国では、新居を購入したばかりなのに地方に転勤になった、などということは起こり得ません。そんな辞令を出してもどうせ辞められてしまうからです。しかし解雇のできない世界ではそのような辞令も増えるでしょうし、雇用の流動性が下がっているため辞めるにも辞められないという状況に陥ります。労働者は終身雇用を享受する代償として、生活の自由を犠牲にして会社の命令に従う必要があるのです。

安定と自由はトレードオフ、どちらもというのは無理な話なのです。

韓国の社会を見てから日本の社会を再び見直すことで、それまで見えなかったことが見えてくるようになりました。どちらが良いということではなく、物事には全て良い面と悪い面があるという、ある意味当然のことなのですけどね。

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