経歴断絶

日韓どちらもワーキングマザーが増えていますが、キャリアに対する考え方には少し違いがあるようです。

韓国では日本に比べて女性のキャリア意識が強く、子供を産んでからもワーキングマザーとして仕事を続けたいという希望を持つ女性が多いです。ただ、実際には出産や育児によって会社を辞めざるを得ない女性も少なくなく、韓国語でキャリアの中断は「経歴断絶」、またそのような女性のことを「経断女」と呼ばれています。

未成年の子供を持つ女性の雇用率は、2019年で韓国は6割程度、日本は7割程度です。雇用率だけを比べると日本の方がワーキングマザーの比率は高いということになりますが、日本はパートなどの時間制の仕事が多く、フルタイムで働いている人の割合は3割程度、収入面から見ても半数以上が年収150万円以下です。一方の韓国はフルタイム勤務の割合が7割程度であり、年収2400万ウォン以上の割合もやはり7割以上です。これを見ると、日本はいわゆる「ゆるキャリ」志向であり、韓国は「バリキャリ」志向であると言えそうです。

一方で、働いていない母親、つまり専業主婦に対する意識も両国で大きく異なっています。世界価値観調査の調査において、「家庭の主婦であることはお金のために働くのと同じくらい充実している」という設問に対する回答結果を下に示しています。(日本2019年・韓国2018年)

日本では否定的な回答が15%程度なのに対し、韓国では50%程度と非常に高くなっています。現代の韓国女性にとって昔の母親像(=専業主婦)というのは「犠牲」というイメージが圧倒的に強く、韓国でベストセラーになり映画化もされた「82年生まれ、キム・ジヨン」という小説でも、主人公が子育てのために仕事を辞めて主婦=経断女になったことが不幸なこととして描かれています。

ただ、過去の調査では韓国でも専業主婦に対して肯定的な見方が多かった(2005年:肯定86.7%・否定13.3%)ことも確認でき、2000年代以降に韓国人の価値観が大きく変化したことが見て取れます。韓国では民主派政党が政権を執っていた2000年代に女性の社会進出が急速に促進され、ジェンダーフリー教育にも力を入れるようになったため、そのような変化が起こったと考えられます。

上のグラフは韓国の大学進学率の推移ですが、2005年に男女が逆転して以降、現在まで女性の進学率の方が高く、その差も徐々に広がっています。特に2000年代の10年間で女性の進学率が約20%も上昇しており、自分の専門知識を活かして働きたいという女性が増えたことも一因と考えられます。

ちなみに日本の場合は男女の大学進学率にそこまでの差は見られません。

韓国における専業主婦=不幸というイメージは、本人がどう感じているかということよりも社会的なイメージが先行しており、メディア等でもそのように扱われることが多いため、結果的に多くの人がそう信じるようになったのだと思います。

おそらくジェンダーフリー教育の影響なのでしょうが、韓国の特に30代以下の世代ではジェンダーギャップが小さくなる方向、つまり「男も女も仕事・家事は分担」することこそが絶対善であり、逆に「男が仕事・女が家事」をすることは絶対悪であると考えている傾向があります。悪とまでは言わないとしても、それは不幸なことであるというイメージは定着しており、肯定的に考える人は少ないように思います。

これが現在主夫である僕が、韓国で住んでいてうっすらと感じる違和感の正体なのかもしれません。無理をしていたり、何かを犠牲にしていたり、そういうことではなくて好きでやっているのに、周りからはそのように見てもらえないことが多いのです。僕は主夫であることで幸せなんですけどね。

日本では複数の研究で、専業主婦はワーキングマザーより幸福度(自身がどれくらい幸福だと感じているかという問いに対する回答の平均点)が高いという調査結果が出ています。この結果からも、日本の主婦たちは少なくとも自分が不幸であるとは考えていないということが分かります。僕の母も僕が生まれる時に会社を辞めてその後は専業主婦ですが、以前聞いた時には専業主婦として生きてきたことに後悔は無いと言っていました。

日韓の女性のキャリアに対する意識の差の裏には、専業主婦に対する価値観の差が存在しているように思います。


参考文献:
・厚生労働省 2019年 国民生活基礎調査の概況
・韓国統計庁 2019年 子女別女性の雇用指標
・KB 2018年 韓国のワーキングマザー報告書

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