日本と韓国の国民年金は似ているように見えますが、どのような違いがあるのでしょうか。
韓国の年金制度は日本の国民年金や厚生年金のように別れてはおらず、全てが国民年金(국민연금)という制度で統一されています。加入する人の立場ごとに、会社員は事業場加入者、自営業者は地域加入者、主婦や学生は任意加入者という風に定義はされていますが、基本的には同じものです。
日本と韓国の国民年金の制度を比較したとき、大きな違いは2つ挙げられます。一つ目は、日本は年金保険料と年金受給額がともに定額であるのに対し、韓国は所得によって変わる(所得額の9%)ということ。二つ目は、日本はその財源の半分を税金によってまかなっているのに対し、韓国は(今のところは)保険料収入だけで運用していること、です。
次の表は日本と韓国それぞれの国民年金の毎月の保険料と、保険料を40年間支払った時に受け取れる老齢年金の満額を示しています。
月平均所得 | 年金保険料 | 受給額満額 | 元が取れる年数 |
全て | 1.6万円 | 6.5万円 | 10.15年 |
月平均所得 | 年金保険料 | 受給額満額 | 元が取れる年数 | 所得代替率 |
100万 | 9万 | 65万 | 5.5年 | 65% |
200万 | 18万 | 85万 | 8.5年 | 42% |
300万 | 27万 | 105万 | 10.3年 | 35% |
468万 | 42万 | 140万 | 12.3年 | 30% |
動画では日韓どちらの国民年金も10年ほどで元が取れると話していますが、韓国の年金は所得の低い人ほど有利にできており、月の平均所得が100万ウォン程度の人では実は5年ほどで元が取れてしまいます。表を見ると分かるとおり、年金保険料を2倍払っていたとしても、受給額がそのまま2倍になるわけではありません。所得が低い人ほど所得代替率が高く、所得が上がるにつれて代替率が下がるようになっています。こうすることで、高所得者から低所得者へ所得を再分配しているのです。
では日本の国民年金にそのような役割は無いのでしょうか?
日本の国民年金は保険料も受給額もあらかじめ額が決まっており、一見すると一律・平等な制度のように見えます。しかし実のところ、その財源は2分の1が国庫負担(税金)です。ではその税金も皆が平等に負担しているかと言うとそうではなく、日本の所得税は累進課税となっており、高所得者ほど税金を多く払っています。所得上位4%の人だけで所得税全体の約半分を担っているというデータもあります。そのように高所得者から多く徴収した税金を、国民年金という形で一律に配分し直すことによって、やはり所得再分配が実現しているのです。
こうして見ると、その構造に若干の違いはあれ、どちらの国民年金も老後の生活を保障しつつ所得再分配の機能も持つという、似たような制度であると言えます。
さて、韓国(海外)に居住している日本人は日本の年金への加入義務は無くなりますが、任意で加入し続けることは可能です。日本の国民年金のみに加入するか(※1)、韓国の国民年金のみに加入するか、両方に加入することもできます。
韓国に住んでいる日韓夫婦で日本人妻が専業主婦というケースを想定します。日本の国民年金は国外居住者として任意加入をするかどうか選べます。また、韓国では所得の無い人は国民年金の強制加入対象から外れるため、こちらも加入は任意になります(※2)。もし韓国の国民年金に任意加入をする場合、平均所得100万ウォン相当として扱われ、月々の年金保険料としては9万ウォンを払うことになります(※3)。もしそのまま40年間保険料を納付したとすると、老後には毎月65万ウォンの年金を受け取れることになります。日本の国民年金は保険料が1万6千円と韓国よりも高いのに対し、老齢年金受給額は6万5千円で韓国とほぼ同程度ですので、どちらか一方を選ぶということであれば、単純に額面だけを比較すると韓国の方がお得かもしれません。
ただし動画の中で話しているとおり、日本の国民年金は生命保険(収入保障保険)としての機能も持っています。民間の保険会社で同等の保険商品に加入する場合には月々3,000円程度の保険料がかかりますので、日本の年金保険料が高めなのはその費用も含んでいると考えることはできます。また、韓国の年金を選択した場合、韓国人夫が先に亡くなり夫の年金が遺族年金に切り替わると、妻が任意加入していた分の老齢年金は消滅してしまいます。日本か韓国かどちらか一方の年金を選ぶという場合には、これらのことも踏まえた上で選択することをお勧めします。
僕たち夫婦は日韓それぞれの国民年金に加入をすることを選択しましたが、反対にどちらの年金にも加入しないという選択をする夫婦もいます。僕の妻もそうでしたが、年金というもの自体に不信感や拒否感を覚える若い人は少なくないようです。僕個人としては国民年金という制度が破綻することは無いと考えており、そのような否定的な感情に共感はできませんが、そもそも年金は貯金よりは得だが投資には敵わないとも思っているので、彼らが自分たちの力で老後の準備をできるのであれば、それはそれでいいのでしょうね。
(※1)韓国に住んでいる外国人も国民年金の義務加入の対象とされていますが、選択の余地なく強制的に加入させられるのは会社員の場合のみです。自営業者は地域加入者に分類され義務加入の対象ではありますが、フリーランスとして働いている人のうち年金に加入している割合は6〜7割程度であり、加入しないという選択も事実上可能です。
(※2)所得が無い人は任意加入者に分類されるため、加入するかどうかは本人が自由に選べます。ただし、外国人は任意加入の対象者から除外されているため、日本人で専業主婦(主夫)の場合には加入ができません。しかし、年金公団の担当者によっては(外国人が対象外なことを知らずに)加入させてくれる場合もあるようですし、実際に加入している人も少なくないようです。
(※3)本人が希望する場合は支払う保険料を増やすことも可能。その場合は老後の受給額は多くなるが、上で述べたとおり所得代替率(=投資効率)は低下する。