民泊廃業

2020年3月末を以て、3年間運営してきたゲストハウスをコロナウィルスの影響で閉店することになってしまいました。

ゲストハウス「tarohouse」は2017年4月1日にオープンしました。2016年にそれまで勤めていた会社を退職し、前からずっとやってみたいと思っていたゲストハウス運営にチャレンジすることにしたのです。

ゲストハウスを始めるにあたり、まずは物件探しです。日本でも少し前に「民泊」というキーワードがよく議論されていましたが、韓国では早くから民泊についての法整備がなされており、ゲストハウスの場合は「外国人観光都市民泊業」という業種に分類されます。名前からも分かる通り、ソウルなどの都市部で民泊業を行う場合、外国人専用の施設として運営する必要があるのです。それ以外にも民泊業には下記のような制限があります。既存の宿泊業(ホテル・ホステル等)への配慮から、このような制限が設けられていると思われます。

  • 外国人専用施設として運営すること
  • 物件の登記上の用途が「住宅」であること
  • 民泊の主人が物件内に居住していること
  • 延床面積が70坪(約230㎡)未満であること

つまり韓国のゲストハウスというのは、自分が「居住」している「住宅」に「外国人」を泊めてあげるという建前であるということですね。

ゲストハウスのための物件は「住宅」である必要があります。一戸建てやヴィラ(集合住宅)、アパート(日本で言うマンション)などが「住宅」に該当しますが、アパートの場合は同じ階に住む住民の過半数以上から同意を得る必要があるということで、なかなかハードルが高そうに思いました。また、韓国ではオフィステルという種類の物件があり、日本のワンルームマンションと同じような位置づけのものですが、登記上の用途は「業務施設」であるため、ゲストハウスの開業は許可されません。ソウル各地のオフィステルなどにはAirbnbで部屋を貸している人も多いですが、ゲストハウスとして許可を受けて運営しているわけではないので、利用される場合は自己責任で。

物件探しに先立ち、まずはエリアの選定を行いました。とはいえ、ほぼ悩むことなく決まりました。弘大入口駅周辺。仁川・金浦の両空港から空港鉄道で乗換え無しで来ることができ、明洞・東大門・江南などの主要エリアにも地下鉄2号線で簡単にアクセスできます。これ以上の立地はないと思いました。また、弘大エリア自体もショッピングを中心に発達しているため、十分な需要が見込めると判断しました。ただ、このような好条件のため、実は弘大駅周辺はソウル内で最もゲストハウスが集中しているエリアでもあります。開業を準備していた2016年の段階でも既に多くのゲストハウスが存在していたため、競争相手が多いというのは少し懸念点でしたが、結果的には弘大を選択したことは正解だったと思います。宿泊先を探すゲストさんも、たくさんの選択肢の中から自分に合う宿を探す方が良いですよね。ポツンと離れたエリアにある宿をわざわざ好む人はあまりいないと思います。

弘大駅周辺で一戸建てを中心に、2週間ほど物件を見て回りました。当時の家賃は坪あたりほぼ10万ウォンが相場でした。50坪で500万ウォン/月〜70坪で700万ウォン/月くらいの物件が多かったように思います。しかしこれくらいの規模だと部屋数も10以上になってくるため、オーナーが1人で運営することは不可能で、スタッフを雇う必要があります。もう少し小さめの物件が良いかなと考えていた矢先、40坪で家賃300万ウォンという物件に出会い、契約することにしました。一戸建ての2階部分だけをレンタルする条件でした。1階は他の会社がオフィスとして使っていましたが、将来的にその会社が移転することになった場合、そのタイミングで1階にも拡張するどうか判断できるというのも魅力でした。

2016年11月に不動産契約を行い、2017年1月中旬に入居しました。そこから1.5ヶ月ほどの期間をかけてインテリア工事を行い、2017年3月には家具や家電を購入・設置し、2017年4月に晴れてオープンすることができました。ゲストハウスなのでホテルに比べると部屋は決して広くはないのですが、それでも限られた空間を最大限効率的に使えるよう、ベッドは無印良品のスモールサイズマットレスを導入しました。韓国では販売していないモデルだったため、日本から取寄せたものです。体の大きな男性や欧米からのゲストにとってはもしかしたら不便だったかもしれませんが、ゲストの9割がアジア人の女性だったということもあって、ベッドサイズについての不満のコメントはほとんど無かったように思います。むしろベッドが良かったというようなコメントを頂くこともありました。

オープン後の数ヶ月間は赤字経営も覚悟していたのですが、運良く初月から(少しだけですが)利益を上げることができ、その後も2020年3月に(コロナウィルスの影響で)初めて赤字を記録する前までは、安定した運営を続けられたと思います。

オープンから3年という短い期間で閉店することになり、とても残念ではありますが、不思議なことにあまり未練はありません。むしろこの状況下で勇気を持って決断できたことは良かったと思っています。3年間たくさんのゲストさまに出会うことができ、とても楽しい時間を過ごすことができました。宿泊いただいた全てのゲストさまに、大変感謝しています。

読んでいただき、ありがとうございました。

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