ゲストハウスを3年間運営した経験を振り返り、ゲストハウスをビジネス的観点から考察してみたいと思います。
ゲストハウス「tarohouse」は2017年4月から2020年3月まで、ちょうど3年間運営したことになります。2017年当時の韓国の賃貸借保護法では、テナント契約は5年間までは借手側が保護を受けられることになっていたため、最低でもその5年間は続けるつもりでゲストハウスの運営をスタートしました。その後法改正もあり、現在では10年間保護を受けられるようになっています。期間が10年に延長された時には喜んだのですが、まさか3年で閉店するとは思っていなかったですね。
3年間の収支については動画の中でも語っていますが、ほぼプラスマイナスゼロでした。目に見える部分では残念な結果に終わってしまいましたが、それ以外に目に見えない部分では色々なものを得られたように思います。(と思いたいです)
ゲストハウスを運営しながら分かったのは、ゲストハウスというビジネスは労働によってお金を稼ぐ自営業としての側面と、ゲストハウス物件自身の資産価値から収益を得る投資としての側面が半々であるということです。特にソウルのような都市であるほどその傾向は強くなると思います。例えばtarohouseの毎月のコスト構造を見てみると、
売上 | 600万ウォン | ↓売上比 |
賃貸料 | 300万ウォン | 50% |
ガス | 20万ウォン | 3.3% |
電気代 | 15万ウォン | 2.5% |
水道代 | 5万ウォン | 0.8% |
消耗品 | 20万ウォン | 3.3% |
賃貸料が売上の約半分の50%を占めています。飲食店などでは売上の10%が賃料の目安とされていますので、ゲストハウスの場合は賃料の占める割合がかなり高いことが分かります。一方、飲食店では原価や光熱費は売上の30%〜40%が目安と言われていますが、ゲストハウスの場合は10%程度です。tarohouseの毎月のコスト約360万ウォンのうち300万ウォンは賃貸料であり、これは割合としては8割を超えています。ゲストハウスはコストの大部分が賃貸料であることから、飲食店における材料費のような変数は少なく、毎月の支出はほぼ一定です。とてもシンプルな損益モデルですので、収支計画を考えるのも難しくなく、初心者向けのビジネスとも言えるかもしれません。
一方、ゲストハウスの売上は客単価×稼働率×ベッド数から算出されますが、客単価×稼働率の部分は同地域の他宿泊施設との価格競争によってある程度決まってしまい、ベッド数もゲストハウス物件の広さによって増やせる限界があるため、売上の天井というのは意外と簡単に見えてしまいます。もちろんオーナーの努力で付加価値を高めて客単価や稼働率を向上させることは可能かもしれませんが、例えば周辺のゲストハウスが一泊5万ウォン、駅前のホテルが一泊15万ウォンで販売している環境で、一泊30万ウォンで客がつくゲストハウスは存在しないと思います。飲食店のように、高級店化するとか、逆にファストフード化して回転率を高めるとか、そういった戦略の幅がゲストハウスの場合は狭いのです。
売上の上限が立地と物件の広さによってほぼ決まってしまい、その売上の半分近くが賃貸料として出ていってしまうため、賃貸ゲストハウスではそれほど大きな利益を期待することは難しいと思います。見方によっては月の半分、15日程度は賃貸料を稼ぐために仕事をしているようなもので、冷静になって考えると悲しくなる時もあります。
そんな賃貸ゲストハウスのオーナーが次に取り得る手は二つしかありません。一つは同じように賃貸で2号店、3号店と多店舗展開すること。もう一つは資金を投じて自分の物件を所有することです。前者は1号店の運営ノウハウをある程度活かすことはできるでしょうが、本質的には2倍3倍のリスクを抱えて2倍3倍のリターンを得ているに過ぎません。外的要因によって経営が悪化した際には被害も3倍になります。一方で後者の場合は、ランニングコストの8割以上を占めていた賃貸料が無くなるため、大幅なリスク低減が見込めます。賃貸料のために働いていた15日間が、自分のための15日間になるのです。
ゲストハウスのビジネスモデルというのは、次のように考えることもできます。住宅という資産を数年単位で賃貸に出すことは、契約期間内の収入が保証されるためリスクは小さいですが、その分期待リターンも小さくなります(4%)それに対してゲストハウスのように数日という短期間で部屋を貸すということは、ゲストがいない期間の空室リスクを背負うことになりますが、その代償(リスクプレミアム)としてリターンも大きくなります(8%)。そのリターンの差分(4%)から利益を得るのが賃貸ゲストハウスのビジネスモデルです。それに対して、自己所有のゲストハウスでは全て(8%)がオーナーの利益になります。
利益率4%と8%では、それぞれ複利で運用した場合、長期間になればなるほど、とてつもない差が生まれます。
こうしたことからも、ゲストハウスオーナーが最終的に目指すべきなのは、ゲストハウス物件の自己所有です。この記事の文頭でも述べたとおり、ゲストハウスオーナーは単なる自営業者ではなく、不動産投資家の要素が必要であるのです。物件の自己所有というとそれはそれでまた別のリスクが生じるようにも思われますが、店舗用物件を所有するというわけではなく、あくまでも住宅の所有ですので、ゲストハウス以外にも居住、賃貸などの用途である程度は潰しが効きやすいです。
さて、3年前にゲストハウスの開業を検討していた際にも、実は物件の購入というのも多少は視野に入れて調査はしていました。とはいえ、いきなり外国で不動産を購入してゲストハウスを始めるほどの勇気や、そのための自己資金が十分にあったわけでもなく、もし融資を受けるにしても実績が必要だろうという考えのもと、まずは賃貸でゲストハウス運営を始めることにしたのでした。その後3年間実際にゲストハウスを運営してきましたが、やはり自己所有が重要であるという考えはさらに強くなりました。
ときどき、将来ゲストハウスを運営してみたいという若い人(学生さんとか)とお話する機会があります。僕もゲストハウスという文化が大好きなので、当然応援したい気持ちはあるのですが、ビジネスとして考えた場合にはどうしてもシビアにならざるを得ません。ドリームキラーにはなりたくはないのであまり否定的なことは言いづらいのですが、出口戦略の無い起業計画を後押しするというのも経験者として無責任な態度だとも思います。ですので、そんな若い人たちにはこう伝えたいです。とにかくまずは資金を貯めてください。開業資金はもちろん、後に物件の所有を検討できるくらいの資金を貯めましょう。開業資金すら融資を受けなければいけないような段階では、ゲストハウスの開業は僕はオススメしません。
僕自身も、いずれまたゲストハウスを再開したいという気持ちはあります。もちろん、次は物件を所有する前提です。ただ、そのときの場所がソウルなのかどうかは分かりません。ゲストハウスを運営する者として、韓国だけでなく他の国の不動産も含めて勉強してみて、色々と考えていることはあります。いずれ機会があればそんな話も書いてみようと思います。