国籍選択

日韓夫婦の二重国籍の子供はいずれ国籍を選択する必要が出てきますが、いつでもどこでも自由に選択できるというものではありません。

日韓夫婦から生まれた子供は、自動的に二重国籍になります。韓国では2011年の法改正により、出生による複数国籍者の場合は国籍選択の代わりに外国国籍を韓国国内で行使しないという誓約を行うことで、外国籍を維持したまま韓国国籍の選択が可能になりました。しかし、日本側は依然として複数国籍を認めていないため、満22歳までに国籍を選択する必要があることに変わりありません。

※2022年4月1日以降、満20歳まで選択するように変更されるようです

さて、韓国では複数国籍を容認することになったということ、また日本では国籍選択の義務はあるものの、日本国籍選択後の外国籍の離脱は努力義務(罰則なし)であるということで、何かしら日韓の二重国籍を維持していく方法もあるのではないか、という内容の記事を見かけます。

結論から言うと、日韓二重国籍の維持は不可能です。

국적법 제13조(대한민국국적의선택절차)
① 복수국적자로서 제12조제1항 본문에 규정된 기간 내에 대한민국 국적을 선택하려는 자는 외국 국적을 포기하거나 법무부장관이 정하는 바에 따라 대한민국에서 외국 국적을 행사하지 아니하겠다는 뜻을 서약하고 법무부장관에게 대한민국 국적을 선택한다는 뜻을 신고할 수 있다.

【翻訳】国籍法第13条(大韓民国国籍の選択手順)
複数国籍者として第12条第1項本文で規定された期間内に大韓民国国籍を選択しようとする者は外国国籍を放棄するか法務部長官が定めたところにより大韓民国で外国国籍を行使しないと言う意思を誓約し法務部長官へ大韓民国国籍を選択するという意思を申告することができる。
国籍法第十一条
外国の国籍を有する日本国民は、その外国の法令によりその国の国籍を選択したときは、日本の国籍を失う。

韓国の外国籍不行使誓約はあくまでも韓国国籍の「選択」とセットです。外国国籍の放棄を強制しなくなっただけであり、国籍の「選択」の義務自体がなくなったわけではないのです。そして日本の国籍法では外国国籍を「選択」した場合には日本の国籍を失うということになっています。そのため、日本国籍の不行使を誓約したとしても、韓国国籍を選択した時点でどちらにせよ日本国籍は喪失し、二重国籍ではなくなるのです。

では、日本でも韓国でも国籍選択をせずに先延ばす、という方法は可能でしょうか?

定められた年齢までに国籍の選択を行わなかった場合、日本では国籍選択の催告、韓国では国籍選択命令が出されると定められており、どちらもそれを受けてから一定期間内に国籍の選択を行わない場合には自動的に国籍が喪失されるとされております。しかし日本ではその催告が実際に出されたことは過去に一度も無いようで、それが日米などの二重国籍は事実上維持が可能であるという状況を作り出しているのですが…、残念ながら韓国の国籍選択命令は実際に出されます。

さらに、国籍選択命令を受けた場合には外国籍不行使制約は認められないため、日本の国籍を離脱して韓国国籍を選択するか、そのまま選択を行わず韓国国籍を喪失させるか、そのどちらかということになります。

そもそも二重国籍を維持したいという動機は何なのでしょうか。せっかく二つ持っているのに手放すのは何となく勿体ない?将来どちらの国でも住めるようにしてあげたい?

外国で暮らそうという人にとって、最も大きな問題は在留資格(ビザ)だと思います。たしかに、在留資格が延長できずにやむなく帰国した人、就労が可能な在留資格を持っていないために仕事を得られないという人は、僕の周りにもいます。ただ、その在留資格の問題さえ解決してしまえば、その後の外国での生活において国籍はそれほど重要ではないと思うのです。僕は日本人なので韓国では外国人として暮らしていますが、日本国内で暮らしていたときと比べても、外国人だからといって生活に不自由さを感じることはほとんどありません。もちろん言葉の面で苦労することはありますが、それは言語能力の問題で、国籍の問題ではないのです。

では、日韓二重国籍の子供がどちらかの国籍を選択した後、国籍を放棄した方の国で住みたいという場合、在留資格はどうなるでしょうか。

韓国国籍を選択した場合

日本国籍を放棄して韓国国籍を選択した場合、その後にもし日本に住みたいという場合には「日本人の配偶者等」の在留資格を取得することができます。これは日本人が国際結婚した場合に外国人配偶者が取得するものとして知られていますが、「等」とついているのは日本人の実子や養子にも申請資格があるためです。この在留資格には就労制限もなく、日本人と同じように働くことができます。「日本人の配偶者等」の在留資格を申請するためには日本人の身元保証人が必要です。日本人の親が日本に居住している場合は問題無いですが、もし親が外国に居住していて子供が単独で日本で生活しようという場合には他の親戚などに身元保証人になってもらう必要があります。また、もし子供が経済的に自立できていない場合には、扶養者の選定および扶養能力の証明も必要になります。もし子供がこの「日本人の配偶者等」の在留資格を取得した場合、その後1年間日本に在留することで永住資格の申請も可能です。

日本国籍を選択した場合

韓国国籍を放棄して日本国籍を選択した場合、その後もし韓国に住みたいという場合には「在外同胞(F-4)」の在留資格を取得することができます。この在留資格の申請資格のうち過去大韓民国籍を有したもので外国国籍を取得した者に該当します。この在留資格は就労にほぼ制限はありませんが、単純労務(配達・警備・掃除等)に従事することは禁じられています。また、二重国籍の男性が兵役を終えることなく韓国国籍を離脱した場合には、「在外同胞」の在留資格は付与されないということにも注意する必要があります。「在外同胞」在留資格所持者は、国籍取得要件を満たすことで永住資格の申請が可能になりますが、過去に韓国国籍を持っていて離脱した人は「国籍回復対象者」に該当するため、国籍取得要件を自動的に満たします。ただし実際に永住資格の許可を受けるためには生計維持能力の証明も必要ですので、ある程度の所得が必要になります。

以上より、日本の国籍を選択しても、韓国の国籍を選択しても、後にもう一方の国で暮らしたくなった場合には容易に在留資格を得ることができ、条件を満たせば永住資格まで取得することが可能だということが分かりました。ですから、わざわざ二重国籍に固執する必要はないと思うのです。ただし、男性が韓国で兵役を終えずに日本国籍を取得した場合はそのような好待遇は無くなり、一般の日本人と全く同じ扱いになります(韓国で住むためには就労ビザなどが別途必要)。このことを踏まえると、二重国籍の男の子がもし日本国籍を選択しようという場合には、将来的に韓国で生活することになる可能性があるのかを考え、場合によっては韓国で兵役を終えた後に日本国籍を選択するという方法も検討してみる価値はありそうです。

国籍の選択は子供の人生を左右するとても重要な選択です。後に後悔するようなことがないよう、親がしっかりサポートしてあげることが大切だと思います。

  1. 「日本側は依然として複数国籍を認めていないため、満22歳までに国籍を選択する必要があることに変わりありません。」←ここのところはちょっと違いますね。
    日本の方がむしろ生まれながらの場合は、外国籍を取得していても、日本国籍を維持できています。

    1. 法律上は、相変わらず国籍選択の義務はあるよ、ということです。
      運用上どうかについては、日米二重国籍などのケースでは、おっしゃる通りかもしれません。

      日韓二重国籍の場合、本ブログの内容の通り、現在は二重国籍の維持は不可能です。

  2. 下手な日本語だったらすみません。私は日韓の二重国籍の者です。このポストを読んだ後、やっぱり重国籍の維持は不可能なのかと気になって大使館にメールを送りました。そしたらこのような返事が来ました。韓国語の返事を日本語で翻訳しました。

    韓国側で外国籍不幸史誓約をしても、日本側には自動的に反映されないため、もし日本国籍放棄を希望される場合は当官をはじめとする日本側に国籍離脱届を提出しなければなりません。

    1. 情報ありがとうございます。送られたメールの内容が分からないので推測になりますが、以下のように解釈いたしました。

      韓国側で外国籍不行使誓約をして(韓国国籍を選択した場合に)も、日本側には(国籍の喪失が)自動的に反映されないため、もし日本国籍放棄(=国籍法第百三条に則った国籍喪失の届出)を希望される場合は当館をはじめとする日本側に国籍離脱届(国籍喪失届)を提出しなければなりません。

      このように

      1. 外国国籍不履行誓約をしたことが日本に自動的に反映されないとしても、もし知られたらどうなるのか気になってまたメールを送ってみました。そしたらこのような回答が来ました。

        もし、外国国籍不履行誓約をした後、韓国基本証明書にその内容が記載された場合、日本側では韓国国籍を選択するものと判断することもできますが、日本国籍が失われるかどうかの詳細は日本法務省ホームページにて本籍地を管轄する法務局をご確認の上、国籍課へお問い合わせください。

        1. まず외국국적불행사 서약서というのは국적선택 신고서と一緒に提出するものですので、韓国の国籍を選択したという状態になります。
          日本の法務省のページ( https://www.moj.go.jp/MINJI/minji78.html )には以下のように書かれています。
          “外国が、日本と同様な国籍選択制度を有している場合に、その外国の法令に従ってその国の国籍を選択したときは、当然に日本国籍を喪失します。”

          「もし知られたら」ということですが、可能性があるとすれば、パスポートを申請するときくらいではないでしょうか。
          旅券申請書に以下のように記入する欄がありますが、

          「現在外国の国籍を有していますか」→「はい」
          「どのような方法で取得しましたか」→「外国籍の父又は母の子として出生」

          このとき、パスポートの申請者が国籍選択期限の年齢を過ぎている場合、国籍選択について確認されるようですが、そこで「韓国の国籍を選択した」と回答した場合、おそらくパスポートの発給は拒否されるのではないかと思います。

          韓国の国籍を選択したことをあえて伝えなかった場合、もしかしたら日本のパスポートは発給できてしまうかもしれませんが、戸籍等に反映されているかは別として、法的には既に日本の国籍を失っている状態ですので、日本のパスポートを使用することは旅券法違反であり、罰則規定も存在しています。

          1. やっぱり日韓の二重国籍の維持は難しいんですかね… 国籍選択の年齢を越えても日韓の二重国籍を維持してるっていう人はまだ見てませんし… 韓国のネットでは外国国籍不履行誓約をして日本の国籍を選択したら日韓の二重国籍が維持できるって出てますが、日本の国籍法の「外国の国籍を有する日本国民は、その外国の法令によりその国の国籍を選択したときは、日本の国籍を失う。」
            については何も書かれてないんですよね..

            1. >> 外国国籍不履行誓約をして日本の国籍を選択したら日韓の二重国籍が維持できる
              おそらく日本国籍法第十一条を把握していないのではないかと思います
              「法律上」は不可能です

              ただし、法律の上では日本国籍が失われていたとしても、それを隠していれば日本人として生活できてしまうというのも事実です
              インターネット上ではそのような「事実上」可能であるということまでを含めて二重国籍の維持だと考える人もいますので、shshさんが見られた内容も、そういう意味で言っている可能性もありますね

  3. それはさすがにちょっと後ろめたいですね.. あと少し気になる点があるんですが、外国国籍不履行誓約と国籍選択をしたら、韓国国籍と日本国籍の二つの国籍を選択した訳じゃなくて韓国の国籍だけ選択したと記録されるのかが気になります…

    1. 韓国国籍と日本国籍の二つの国籍を選択した
      →これはそもそも「선택」とは言わないですよね?

      韓国の外国国籍不行使誓約による国籍選択は、
      대한민국 국적을 선택한다는 뜻 です。
      つまり 나는 “대핸민국에서는” 오로지 한국인으로 살겠다 という趣旨です。

      韓国は生まれつきの重国籍の場合、その保持を認めるようにはなったものの、少なくとも韓国内では行使する国籍は一つに選択しなさい、という立場です。あるときは韓国人、あるときは外国人、ということは認められないのですね。

      1. 本件、法務局にも確認取れました。ご参考ください。

        韓国国籍法第13条の外国国籍不行使誓約を行い韓国国籍を選択した場合、日本の国籍法第11条第2項による外国国籍の選択に該当し、日本国籍を喪失します。
        そのため、韓国国籍の選択手続を行った後、戸籍法第103条第1項に基づき、国籍喪失の届出を国籍喪失の事実を知った日(韓国国籍の選択を行った日)から1か月以内に行う必要があります。
        なお、韓国国籍の選択を行った日以降、日本に居住する場合は、外国籍者として居住することになるため、住所地を管轄する出入国在留管理局において、在留手続を行う必要がありますので、御注意ください

        1. 情報本当にありがとうございます ! 法務局に確かめてみようとずっと考えていたのですごく助かりました。やっぱり韓国と日本の二重国籍は無理なんですね。残念だけどはっきり駄目なのがわかってすっきりしました。ちょっと心配なのは日韓二重国籍の維持が可能だと思って子供(日韓二重国籍)に外国国籍不行使誓約をさせた後、日本国籍を選択させるつもりだという方をネットで見ました。でもそうしたら日本国籍を喪失するって事なんですよね…

          1. これについて何か誤解をしています。
            まず、韓国籍法の외국적불이행とは生まれ付き二重国籍者でないとできない制度で韓国領地以内に入った状態(韓国に入国してから)では韓国籍のみ行使する。つまり韓国にいるときは生まれ付きの外国籍を使わない。とのことでこの誓約をした者には国籍選択義務から除外する。つまり韓国籍の選択を問わないとのことです。

            1. >韓国籍法の외국적불이행とは生まれ付き二重国籍者でないとできない制度
              当記事は日韓夫婦の子供という前提での議論ですので、そのように理解しています

              >韓国領地以内に入った状態(韓国に入国してから)では韓国籍のみ行使する。つまり韓国にいるときは生まれ付きの外国籍を使わない。とのこと
              そのように理解しています

              >この誓約をした者には国籍選択義務から除外する。つまり韓国籍の選択を問わないとのこと
              法的に「除外する」とされている資料などがあれば、ご教授いただければと思います。
              国籍法では、외국 국적을 행사하지 아니하겠다는 뜻을 서약하고 법무부장관에게 대한민국 국적을 선택한다는 뜻을 신고할 수 있다、と定義されています。
              また、日本の法務局も외국적불이행は韓国国籍の選択に該当すると解釈しています。

  4. 韓国も男性については重国籍は認められません。
    男性は、生まれながら他国の国籍を持っている場合、18歳になる年の3月末までに国籍選択をしなくてはいけません。韓国籍離脱もこの時までにしなければなりません。
    韓国兵務庁から出ている情報にもそう書いてあります。つまり、これは兵役との関係によります。
    韓国籍を選んだら兵役、日本籍を選んだら当然兵役はなし。
    もし、生まれながらの日韓の二重国籍者をはじめ、複数の国籍を持っている人が、18歳になる年の3月末までに国籍選択を行わなかった場合は、多重国籍者として兵役義務が生じます。
    韓国籍を持っている男性が、多重国籍でいる条件は兵役をつとめることです。海外在住などを理由に兵役免除に相当する資格を得られる制度もあります。

    1. コメントありがとうございます。

      >韓国も男性については重国籍は認められません
      男性についても、外国籍不行使誓約を行うことで重国籍を維持することは可能です。(とけいこさんもコメントの最後の部分でそう書かれているのでご理解されていると思いますが、他の方が見たときに誤解があるかもしれませんので、念のため)
      もちろんその場合は韓国人としての兵役義務は生じます。

      >18歳になる年の3月末まで
      国籍法第12条に関連する内容ですが、
      ちょっと分かりにくい部分なので整理しますと

      ・男性は18歳になる年度に入ると兵役義務が発生する
      ・ただし3ヶ月間は猶予期間として国籍選択が可能
      ・その期間を過ぎた場合は兵役を終えるか免除されてから2年以内に国籍選択することになる
      ・ただし外国籍を離脱する方法で韓国国籍を選択する場合は兵役を終える前でも可能(外国国籍不行使誓約は不可)

      ということですので、「18歳になる年の3月末」というのは韓国国籍を離脱したい場合のタイムリミットであり、韓国国籍を選択するつもりであればあまり気にする必要はありません。

      参考:https://overseas.mofa.go.kr/us-ko/brd/m_4482/view.do?seq=1022539&
      o 18세가 되는 해의 3월말까지로 국적이탈 시기를 정한 이유
      – 선천적 복수국적자는 병역의무가 발생하기 전인 17세까지는 언제라도 국적선택이 가능하나, 18세가 되면 제1국민역에 편입되어 대한민국 국민으로서 병역의무가 발생하므로 국적 이탈을 제한하고 있습니다.
      – 다만, 국적선택 시기를 놓친 사람들을 위하여 3개월의 유예기간을 두어 제1국민역에 편입되는 해(18세)의 3월까지는 국적 이탈을 허용하고 있습니다.
      – 이는, 병역의무가 발생한 18세 3월까지 국적이탈을 하지 않은 선천적 복수국적자는 대한민국 국민으로서 병역의무를 이행한 후에 국적을 이탈할 수 있도록 제한함으로써 국적선택제도를 통한 병역자원의 유실을 막고 병역의무 면탈을 방지하는데 그 취지가 있습니다.
       
      >海外在住などを理由に兵役免除に相当する資格
      海外に住んでいる場合は兵役義務が解消される37歳まで延期が可能です。
      免除ではなくあくまでも延期してもらっているという立場なので、その期間中は韓国国内に滞在できる日数が制限され、それを超えた場合には兵役義務が発生します。
      韓米ハーフの子でアメリカに住んでいる場合などは、兵役に行かずに二重国籍を維持するということも可能なのかもしれません。

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