婚前同居

韓国で結婚前に同棲するカップルがなかなか増えないのはなぜでしょうか。

韓国統計庁 2018年 社会調査

結婚前の同棲に反対する考えは年齢が上がるほど否定的になり、60代では過半数が反対しています。その一方で20代・30代では反対意見は2〜3割程度であり、7割程度は同棲に対して肯定的な考えを持っているようです。それにもかかわらず、動画の中でも話しているとおり、実際に韓国で同棲をしようというカップルはそれほど増えていないようです。

以前、韓国の知人と話していて、同棲に対する考えの部分で賛否が分かれたことがあります。僕は同棲することの機能的なメリットを中心に話したのですが、知人の意見は親の反応や社会的な視線というところに終始しており、あまり建設的な議論にはならなかった記憶があります。

韓国では、たとえ同棲に対して賛成意見を持っていたとしても、親に怒られるから自分には無理、という若者が多いように思います。結婚を考える歳になってもまだ親か…と思ってしまいそうですが、そのあたりは文化の違いも考慮する必要があります。

内閣府 第8回 世界青年意識調査

18歳から24歳までの青年を対象とした内閣府の調査では、韓国の青年は「親の意見にはできる限り従うべきだ」という問いに「そう思う」と答えた割合が42.9%と、日本の20.6%やそれ以外の国と比較してもかなり高い水準でした。韓国の若者にとって親の意見というのは我々日本人の感覚以上に絶対的なものであり、影響を受けざるを得ないものなのです。

さらに、結婚文化の回にも書いたとおり、韓国では結婚するためには数億ウォンという費用が必要ですが、そのようなお金を自分の力だけで準備できる若者はほとんどいません。どうしても親の援助が必要になります。サムソン生命隠退研究所の2016年の調査によると、韓国の親は子供が結婚する際に男子一人当たり平均9400万ウォン、女子一人当たり4200万ウォンを支援しているという調査が出ています。また、家庭ごとに金額の大小はあるにせよ、ほぼ全て(97%)の親が子供の結婚に対して金銭的援助を行ったということです。

韓国の若者は親の意見に従うことを是とする文化に暮らしており、そのうえ結婚に関しては親の支援に頼らざるを得ない状況でもあるため、なおのこと親の機嫌を損ねるようなことは避けなければなりません。親が反対している結婚前の同棲を、親を説得しようとしたり、反対を押しきってまで実行に移すというのは、韓国では難しいことなのでしょう。

内閣府 第8回 世界青年意識調査 +
国立青少年教育振興機構 インターネット社会の親子関係に関する意識調査

ところで、これに関連してなかなか面白い調査結果がありました。前述した内閣府の調査とほぼ同じ内容を、各国の小・中学生に対して調査したものです。その結果と先の内閣府の調査結果とを合わせてグラフ化したものが上の図です。日本では年齢による変化がそれほど無く一定なのに対し、アメリカでは年齢が上がるほど親の意見に従うという回答が減り、逆に韓国では青年になった途端に親の意見に従うという回答が急増しています。

韓国では若者を評するときによく使われる表現として「철이 들었다」「철이 없다」という言葉があります。「철이 들었다」は大人の考え方ができるようになったという意味で、逆に「철이 없다」は大人になれずいつまでも子供のような人に対して使われます。韓国では子供から大人への過渡期において「철이 들었다」ことが強く求められますが、そこで上下関係や秩序を重んじる韓国式儒教の考え方を身につけることになります。例えば、幼い頃は親に対してため口で話していた子供も、中高生あたりを境に親(特に父親)に対して敬語を使うようになります。

少し古い調査ですが、韓国では「子供は幼い時期は自由にさせ,成長に従って厳しくしつけるのがよい」という教育方針に賛成する割合が高いことが分かります。この調査は親目線ですが、先に紹介した子目線の調査結果とも辻褄が合っています。韓国の子供は「成長に従って厳しく」儒教の教えを叩き込まれ、大人になると「親の意見に従う」ようになるのです。

それほど上下関係も厳しくない日本社会で育って来た身としては、韓国の人たちの人間関係を見ると、なかなか大変だろうなと感じることもあります。しかしそれが韓国の文化であり、韓国に住む者としてはきちんと理解しておく必要があると思います。ちなみに僕は韓国に来てから、親に対して敬語を使うようになりました。色々な文化に接してみて、良いと思うことは積極的に取り入れていきたいです。

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